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福岡地方裁判所行橋支部 昭和49年(ワ)26号 判決

原告

村上一政

被告

中野一郎

主文

被告は原告に対し金九四六万九、九七二円及び内金八六一万九、九七二円に対する昭和四八年一〇月二〇日から支払済みに至るまで年五分の割合による金員を支払え。

原告のその余の請求を棄却する。

訴訟費用はこれを二分し、その一を被告の、その余を原告の負担とする。

この判決の第一項は仮に執行することができる。

事実

第一申立

一  原告

(一)  被告は原告に対し金一、八八九万八、八五一円及び内金一、七三九万八、八五一円に対する昭和四八年一〇月二〇日より支払済みに至るまで年五分の割合による金員を支払え。

(二)  訴訟費用は被告の負担とする。

との判決並びに第一項につき仮執行の宣言。

二  被告

(一)  原告の請求を棄却する。

(二)  訴訟費用は原告の負担とする。

との判決並びに被告敗訴の場合における仮執行免脱宣言。

第二主張

一  請求原因

(一)  事故の発生

原告は昭和四八年一〇月一九日午前六時三〇分頃、県道行橋―帆柱線をホンダカブ(五〇CC)を運転して時速約一五キロメートルで行橋方面より帆柱方面に向けて進行中、福岡県京都郡犀川町大字城井馬場において、対面進行してきた被告の運転する普通乗用自動車(北九州五五ね1183)に衝突され、右大腿、下腿骨欠損、右下肢広範囲挫減創、右腓骨々頭骨折及び腓骨神経麻痺、右膝外側副靱帯、十字靱帯断裂等の傷害を受けた。

(二)  被告の責任

本件事故現場は幅員約四メートルの見通しの悪いカーブになつている地点であるから、自動車運転者としては、対向車両等との事故を防止するため、減速徐行して進行すべき注意義務があるのに、被告はこれを怠り、時速約五五キロメートルの速度で、かつ左側通行の原則を無視して運転していたため、本件事故が発生したものであつて、本件事故は被告の一方的過失に起因するのみならず、その運転車両は被告の所有に属するものであるから、自賠法第三条により、被告は原告の蒙つた人損、物損のすべての損害を賠償する責任がある。

(三)  損害

1 国鉄乗車券等代金 一万三、三六〇円

原告は妻とともに本件事故当日たる昭和四八年一〇月一九日午前一〇時二一分小倉駅発つばめ四号に乗車して、日本電装株式会社に就職中の次男一則のところに面会に行くことにしていたが、本件事故のためそれが果せず、結局乗車券等の代金相当額の損害を蒙つた。

2 診断書料 九、七〇〇円

原告は、本件事故によつて蒙つた傷害の内容等を勤務先たる九州鉄道運輸株式会社、保険会社等に知らせるため、診断書の交付を受けたが、それに要した費用は合計七、九〇〇円である。

3 タクシー料金 三万〇、五五〇円

原告は、本件事故のため、事故当日より九州労災病院に入院し、昭和四九年四月一九日に症状が固定したが、右下膝の動揺、右足関節の背屈不能、歩行障害、右下腿外側より足背にかけての知覚鈍麻等の後遺障害が残つた。

しかして、原告入通院中の期間中、原告はタクシーを必要とし、その代金として三万〇、五五〇円を支払つた。

4 ベツト、寝具使用料 六、四八〇円

原告が本件事故による入院中に九州労災病院売店よりベツト、寝具を借り受けたが、その賃料は合計六、四八〇円となる。

5 パジヤマ、ガウン購入代金 一万四、〇〇〇円

原告は本件事故による入院中パジヤマ、ガウンを購入せざるを得なくなり、合計一万四、〇〇〇円を出費した。

6 入院雑費 三万九、九〇〇円

原告は本件事故により昭和四八年一〇月一九日より昭和四九年二月二八日まで、一三三日間の入院を余儀なくさせられたが、現在入院一日に付金三〇〇円相当の雑費が必要であることは公知の事実であつて、従つて原告の要した入院雑費は合計三万九、九〇〇円となる。

7 付添看護料 一〇万八、〇〇〇円

原告は入院中重傷のため付添が必要であつたため、事故当日より昭和四八年一一月二三日まで被告承諾の下に付添を付した。

8 慰藉料 三〇〇万円

原告は、本件事故により一三三日間入院し、昭和四九年三月一日より同年四月一九日まで通院したのみならず、前記のとおり後遺症が残つたが、これらによつて原告の受けた精神的打撃を金銭に評価すれば金三〇〇万円を下らない。

9 逸失利益

(1) 休業損害 四三万四、四〇〇円

原告の本件事故前三カ月間の実収入は平均七万二、四〇〇円であるところ、原告は本件事故により休業したので、症状固定の日である昭和四九年四月一九日までの六カ月間の休業損害を計算すると四三万四、四〇〇円となる。

(2) 昭和四九年四月二〇日以降の得べかりし利益 一、六九一万八、三二四円

(イ) 昭和五〇年三月三一日までの逸失利益

原告の本件事故当時の平均月収は七万二、四〇〇円であるところ、昭和四九年四月一日より月額二万三、八〇〇円のベースアツプがなされているので、月収は九万六二〇〇円となる。又原告の勤務していた会社のボーナス額は、基本給たる月額三、六一六円より臨時手当の二〇八円を控除した三、四〇八円の二五日分の三・六倍を下らないので、その額は年間三〇万六、七二〇円を下らない。従つて、給与及びボーナスの合計年収額は一四六万一、一二〇円を下らないことになるが、原告は昭和四九年四月二〇日以降昭和五〇年三月三一日まで稼働することができず、右期間内に得た収入は、失業保険金四四万六、四六〇円であるから、右期間内の逸失利益額は九三万四、五九八円となる。

345/365×1,461,120-446,460=934,598(円)

(ロ) 昭和五〇年四月一日以降一〇年間の逸失利益

原告の昭和五〇年四月一日の年令は満五〇才(大正一四年三月二七日生)であるが、原告の勤務していた会社の定年は満五五才であるところ、原告の場合は定年延長が五年間なされる見透しであつたので、満六〇才まで勤務できたことになる。従つてその間の逸失利益額は原告の年収一四六万一、一二〇円にその労働能力喪失割〇・六七を乗じた額の一〇年間分合計九七八万九、五〇四円となる。右計算において中間利息を控除しないのは、会社のベースアツプ及び戦後三〇年間の物価上昇を考慮すると年五分の率を上廻ることが明らかであるからである。

(ハ) 退職金

原告が退職する際に支給される退職金の額は、一六三万六、二五〇円を下らないと考えられるところ、原告は昭和四九年三月二二日頃、一七万三、八八〇円の退職金を受領したので、その差額一四六万二、三七〇円に一〇年間の法定利息の係数たる〇・六六六を乗ずると、九七万三、九三八円となる。

(ニ) 退職後の逸失利益

年令五〇才の男子の平均余命年数が二四・九二年であり、又その就労可能年数が一七年であることは公知の事実であり、又年令別平均給与額が次のとおりであることも裁判上顕著な事実である。

六〇才 一一万五、七〇〇円(年一三八万八、四〇〇円)

六一才 一一万〇、二〇〇円(年一三二万二、四〇〇円)

六二才 一〇万四、八〇〇円(年一二五万七、六〇〇円)

六三才 九万九、三〇〇円(年一一九万一、六〇〇円)

六四才以降 九万三、九〇〇円(年一一二万六、八〇〇円)

そこで原告の昭和六〇年四月一日から七年間の逸失利益額を算出すると、九六六万七、二〇〇円に一七年間の法定利息の係数たる〇・五四を右金額に乗じた五二二万〇、二八八円となる。

10 便所改装費 二二万円

原告は前記のとおりの後遺障害があるため、便所を改装しなければならないが、その費用として二二万円の出費を余儀なくされる予定である。

11 弁護士費用 一五〇万円

原告は被告が任意の支払をしないので、弁護士たる原告訴訟代理人に本件訴訟を委任し、その謝金として認容額の一割を支払うことを約束した。

(四)  受領額

原告は、被告より、昭和四八年一一月一四日から本日まで九回にわたり合計八九万四、〇六三円を受領し、更に保険会社から二五〇万円を受取つたので、このうち八九万四、〇六三円を逸失利益に、二五〇万円を慰藉料に充当する。

(五)  よつて、原告は被告に対し、損害金一、八八九万八、八五一円及び内金一、七三九万八、八五一円に対する本件事故の翌日たる昭和四八年一〇月二〇日以降支払ずみに至るまで民事法定利率年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

二  請求原因に対する答弁

(一)  請求原因(一)の事実中、事故に関する事実は認めるが、負傷内容程度は不知である。

(二)  同(二)の事実中、被告の保有者責任の関係事実は認めるが、被告が減速徐行を怠つた点、時速五五キロメートルの速度で進行したとの点及び左側通行の原則を無視したとの点はいずれも否認する。

(三)  同(三)の事実はいずれも不知。

(四)  同(四)の事実中、弁済額の点についてはこれを認めるが、充当関係は不知。

(五)  過失相殺の主張

本件事故現場はカーブになつていて前方注視が困難な場所であるが、同所にはカーブミラーが設置されているので、原告車側からも早期に被告車の接近を予知でき、これとの衝突を回避し得たのに、原告はこれを怠り漫然と進行したのみならず、原告は左側通行をしていなかつた。右原告の過失は原告の蒙つた損害額を算定するにあたり考慮さるべきである。

第三証拠関係〔略〕

理由

一  事故の発生

昭和四八年一〇月一九日午前六時三〇分頃、福岡県京都郡犀川町大字城井馬場の県道上において、原告運転にかかるホンダカブ五〇CC(以下原告車という。)と被告の運転する普通乗用自動車(以下被告車という。)が衝突した(以下本件事故という。)ことは当事者間に争いがない。

二  事故の態様並びに原告の受傷の部位、程度

(一)  〔証拠略〕によると、本件事故現場付近道路は横瀬方面から豊津町方面に向つて右側に曲線をえがく平坦なアスフアルト舗装のまがり角であり、その道路幅員は、曲線の頂点付近において約三・六メートル横瀬方面側において約四・三メートルであること、ところで、横瀬方面から豊津町方面に向つて左側には民家が存し、高さ約一・三五メートルのブロツク塀が構築されているため、本件事故現場付近道路をいずれの方向から進行する場合でも、その前方の見通しは困難であること、しかして、本件事故現場にはカーブミラーが設置されており、これを通して双方から進路前方の状況を見通すことができるようになつていたが、本件事故当時霧のためその表面がくもつていたので、右カーブミラーはその役目を果していなかつたこと、被告は被告車を運転して県道を横瀬方面から豊津町方面に向つて時速約五〇キロメートルで進行中、本件事故現場に差しかかつたが、急いでいたためと、早朝で交通量がほとんどなかつたため、対向車両はないものと軽信し、警笛吹鳴及び減速徐行することなく漫然と同一速度で本件まがり角をまがり始めたところ、前方に原告車を初めて発見し危険を感じたが、既に時遅く被告車が約一二・五メートル進行した地点で被告車の左前部が原告車と正面衝突したこと、一方原告は県道を豊津町方面から横瀬方面に向け原告車を運転して進行中、本件まがり角の手前で時速約二〇キロメートルに減速したが、十分徐行することなく本件まがり角をまがろうとした際、右のとおり被告車と衝突したことしかして衝突地点は道路左端(原告車の進行方向から見て)から約一・五メートルの地点で、原告は衝突前道路左端から約二・三メートルの地点を進行していたことが認められる。

(二)  〔証拠略〕によれば、原告は本件事故により、右大腿・下腿骨欠損、右下肢広範囲挫滅創、右腓骨々頭骨折及び腓骨神経麻痺、右膝外側副靱帯・十字靱帯断裂の傷害を負い、直ちに九州労災病院に入院したこと、その後原告は、昭和四九年二月二八日まで同病院で入院治療を継続し、同病院退院後同年四月一九日まで通院治療を受け、同日症状が固定したが、右膝は外反変形し、右足関節に尖足位変形を残し、右膝には屈曲障害があり、又動揺が著明で膝固定装具を着装しなければ歩行は不能の状態であること、又右腓骨神経麻痺のため、知覚、運動障害があり、足関節等の背屈が全く不能であること、このため原告は二キロ以上の長距離にわたる歩行が困難であり、足に痛みを感ずることもあり、椅子にも浅くしか座れず、座つても短時間に限られること、又段差のあるステツプ、段階等の昇降には非常な困難を伴うことが認められる。

三  被告の責任

被告が被告車を所有していたことは当事者間に争いがないので、被告は自賠法第三条により、原告が本件事故により蒙つた人損を賠償すべき義務がある。

四  損害

(一)1  国鉄乗車券等代金 六、六八〇円

〔証拠略〕によると、原告は本件事故当日妻とともに愛知県に旅行する予定になつていたので、予め国鉄乗車券、特急券等を一人当り代金六、六八〇円で購入していたが、本件事故のため右旅行が不能となり、原告は右代金相当額の損害を蒙つたことが認められる。

2  診断書料 七、九〇〇円

〔証拠略〕により認める。

3  タクシー料金 三万〇、五五〇円

〔証拠略〕によると、原告は前記入通院期間中、歩行が困難であつたため、治療その他の所用にタクシーを利用し、タクシー代として合計三万〇、五五〇円の出費を余儀なくされたことが認められる。

4  入院中の附添看護人のベツト、寝具使用料 六、四八〇円

〔証拠略〕により認める

5  入院中のパジヤマ、ガウン購入代金 一万四、〇〇〇円

〔証拠略〕により認める。

6  入院雑費 三万九、九〇〇円

前認定のとおり原告は本件事故により一三三日間入院治療を受けたが、本件事故当時一般的に入院雑費として少くとも一日当り三〇〇円を下らない費用を要したことは、公知の事実であるから、右入院期間中の雑費を算出すると合計三万九、九〇〇円となる。

7  付添看護料一〇万八、〇〇〇円については、これを認めるに足る証拠はない。

8  便所、浴室改造費 二二万円

〔証拠略〕によれば、原告は右足を屈曲できないため、便所及び浴室の改造を余儀なくされ、そのため合計二四万九、八五〇円を出費したことが認められるところ、原告主張額の範囲でこれを認める。

9  逸失利益

(1) 休業損害 四四万二、二〇〇円

〔証拠略〕によると、原告は本件事故当時九州鉄道運輸株式会社に一般作業員として勤務し、月平均七万三、七〇〇円(事故直前三カ月間の平均給与)の給与の支給を受けていたが、本件事故による受傷のため治療中休業したことが認められ、原告の症状固定時が昭和四九年四月一九日であること前記のとおりであるから、事故時から同日までの六カ月間の得べかりし給与額を計算すると、四四万二、二〇〇円となる。

(2) 昭和四九年四月二〇日以降の得べかりし利益 一、〇六一万五、八六三円

〔証拠略〕によれば、原告の勤務していた九州鉄道運輸株式会社では、昭和四九年四月一日以降平均月額二万三、八〇〇円の定期昇給、ベースアツプがなされたこと従つて原告の同日以降の給与も従前の給与七万三、七〇〇円に右同額の定昇等の分を加算したものとみてさしつかえないこと、又同会社では夏季及び冬季賞与を毎年支給しているところ、その支給額は過去において年間最高四・二カ月分から最低三・二カ月分に至るまでその年度の実績によつて異なるが、過去の実績に照らし今後は年間四カ月分を下廻らないことが予測されること、しかして原告のような日給者の場合、その基準となる月額は基本給(本給+暫定手当+職務給)に二五日を乗ずることによつて算出されること、ところで昭和四九年度の原告の右基本給は三、四〇八円であることが認められ、右認定の事実によれば、今後九州鉄道運輸株式会社では、少くとも原告の主張する年間三・六カ月分を下らない賞与の支給がなされる蓋然性は大きいものといえるので、右認定にかかる数値に基づき原告の右賞与を加えた年間総所得を算出すれば一四七万六、七二〇円となる。

しかして〔証拠略〕によれば、原告は大正一四年三月二七日生れであり、昭和四九年四月二〇日当時満四九才であること、九州鉄道運輸株式会社では成績良好の者は満六〇才まで勤務できることとなつており、原告がその恩典を受け得ることは過去の成績からみてほぼ確実であることが認められる。又原告はその平均余命から見ても満六五才まで就労可能と考えられるところ、原告の退職後の年間総所得は一三四万九、二〇〇円(昭和四八年度賃金構造基本統計調査報告による全産業男子労働者六〇才から六四才の平均給与、賞与等の合計額)とみるのが相当である。そして前記二(二)に認定の後遺障害に照らせば、原告の右後遺障害は労基法施行規則別表第六級の「一下肢の三大関節中の二関節の用を廃したもの」に準ずるものというべきであり、労働基準監督局長通牒による労働能力喪失率表によると、その場合の労働能力喪失率は六七パーセントであるとされているところ、原告の年令、従前の職業等を考慮すれば、原告の労働能力喪失率は右率をもつて相当とすべきである。

そこで以上の数値に基づき原告の昭和四九年四月二〇日以降の得べかりし利益を年毎に年五分の中間利息を控除するホフマン式計算法により算出すれば次のとおりとなる(なお原告は中間利息を控除すべきでないと主張し、わが国において戦後物価上昇及びこれによるベースアツプが毎年見られたことは原告主張のとおりであるが、今後の経済事情の変動並びにこれにともなう物価上昇率は必ずしも予測しがたく、物価上昇率が常に年五分を上廻るとはいえないので、原告の右主張は採用しない)

〔1,476,720×8.5901+1,349,200×(11.5363-8.5901)〕×0.67=11,162,323(円)

しかして原告が昭和四九年四月二〇日以降失業保険金四四万六、四六〇円を受領したことは原告において自陳するところであるから、右得べかりし利益額からこれを控除すれば、結局同日以降の原告の得べかりし利益は一、〇六一万五、八六三円となる。

(3) 退職金における得べかりし利益 五〇万八、九七一円

〔証拠略〕によれば、九州鉄道運輸株式会社では、従業員が退職した場合本給に勤続年数を乗じた額に本人の貢献度に応じたプラスアルフア分を加算した額の退職金が支給されることとなつているが、定期昇給を加味した原告の満六〇才の退職時の予想本給は六万二、二五〇円であることが認められるから、右認定の事実に基づき原告の退職時の退職金の額を算出すると、少くとも一〇五万八、五二〇円となる。なお、〔証拠略〕によれば、ベースアツプ分のうちの本給繰入れがあるものと仮定したうえで、その分による退職金の加算額が算出されているが、経済事情の変動を予測したがたいことを考えると、同号証でいうところのベースアツプによる本給繰入れ額に基づく本給加算が今後ある程度の確実性をもつて行なわれるとはいいがたいから、これを加算することをしない。そこで右原告の得べかりし退職金の現価を年五分の中間利息を控除して求めると、

1,058,520×0.6451=682,851(円)

となる。

しかして、原告が昭和四九年三月二二日頃九州鉄道運輸株式会社を退職し、一七万三、八八〇円の退職金を受領したことは原告において自陳するところであるから、これを前記得べかりし退職金の額から差し引くと五〇万八、九七一円となる。

(二)  過失相殺

前記認定にかかる本件事故の態様によれば、被告には見通しの悪い本件まがり角を進行するに際し、減速徐行することなく漫然と時速約五〇キロメートルの速度で進行した過失のあることは明らかであるが、原告にも本件まがり角が見通しが悪いのに拘らず十分徐行することなく進行した過失があるものというべく、原告のこの過失を被告の過失と対比するときは、原告の蒙つた以上の損害から過失相殺分として、その二割を減ずるのが相当である。そこで以上の損害合計一、一八九万二、五四四円からその二割を減ずると九五一万四、〇三五円となる。

(三)  慰藉料

〔証拠略〕によると、原告はいまだ就学中の次男(高校二年生)、長女(中学二年生)及び次女(小学六年生)を抱えているが、本件事故による受傷のため、九州鉄道運輸株式会社を退職し、現在再就職が困難な状況にあることが認められ、原告が今後の一家の生活に多大の不安を抱いているであろうことは容易に推測されるところである。しかして右事情に原告の本件事故による受傷の部位、程度、治療に要した入、通院期間、後遺障害の内容、程度、本件事故の態様等諸般の事情を総合勘案すれば、原告が本件事故により蒙つた精神的苦痛を慰藉する慰藉料としては金二五〇万円をもつて相当とする。

五  損害の填補

原告が被告から九回にわたり合計八九万四、〇六三円を、自賠責保険から二五〇万円を受領したことは当事者間に争いがないので、これを四の損害合計から控除すれば、原告が被告に請求し得べき残損害額は八六一万九、九七二円となる。

六  弁護士費用

〔証拠略〕によると、原告は被告から、本件交通事故による損害の賠償を任意に受けられなかつたので、弁護士である原告訴訟代理人に本件訴訟の提起及びその追行を委任し、その報酬として認容額の一割ないし一割五分を支払う旨約したことが認められるから、本件訴訟の難易、その経過、及び認容額等を考慮すれば、被告が負担すべき弁護士費用としては金八五万円をもつて相当とする。

七  結論

よつて、原告の本訴請求は、被告に対し五及び六の損害金合計九四六万九、九七二円及び右のうち弁護士費用を除いた八六一万九、九七二円に対する本件事故の翌日であること明らかな昭和四八年一〇月二〇日から支払済みに至るまで民事法定利率年五分の割合による遅延損害金の支払を求める範囲で理由があるから、右限度で認容し、その余を棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条、第九二条を、仮執行の宣言につき同法第一九六条を適用し、なお仮執行免脱宣言についてはこれを付するのを相当でないものと認め、主文のとおり判決する。

(裁判官 園田秀樹)

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